嘆き続ける僕を君が少しだけ心配するとき、 その時だけ僕は小さな幸せを感じることができる。 君が信じる僕は少しだけ繊細で概ね凡庸な人間。 でもそれは殆ど間違っている。 僕は繊細なのではなく脆弱、そして凡庸なのではなく愚鈍。 でも君が愛しいと感じてくれているのは、僕の繊細で凡庸な部分。 だから僕は君の誤った認識を正そうとは露程も思わない。 いつまでも君は僕に幻想を見せてくれるから、 夢でないものも夢と言い、枯れた現実も作り事だと言ってくれるから、 だから僕は君に惚れ、いつまでも離れられないんだ。 それは逃避だと、ある人は非難するけれど、 逃げてない人間なんて何処にもいないと思う。 仕事に生きる人も、勉学に勤しむ人も、 表向きは困難に立ち向かってるかもしれないけれど、 それが思考停止だと、どうして気付かないのかな。 本当の逃避だと解っていながら、目を逸らしているのかな。 僕等は確かにお互いを慰め合うばかりで、 他者になにかをもたらす行為はなにひとつしていないけれど、 僕等はお互いの間で幸福を交わしあっている。 見せかけかも知れないし、儚いものかも知れないけど、 不幸と不満にまみれて愚痴と説教ばかりの、 酒と煙草と珈琲に溺れた生活より、よっぽどマシだと思うんだけどな。 僕が生み出す小さな嘘を、君は嬉しそうに受け取って、 君が返してくれる笑顔に、僕はちょっとだけ救われる。 悲観的な言葉を口にする僕を、君は前向きな言葉で励まして、 その前向きさの裏側にはいつも悲しみが揺れていて、 勘ぐる僕から君は顔を背ける。終わりを避けるように。破綻から逃れるように。 何処か壊れた世界で生まれた僕等は、 繋がる術を失っていて、絆というものを与えられなかった。 それでも僕等はこうして出会って、手を繋いでいられる。 お互いの存在の不確かさは勿論承知の上だし、 日常はあやふやなものばかりに囲まれているけれど、 君が見せてくれる夢に、いつまでも浸っていたいから、 逆らいようのない力に引き裂かれるまでは、僕はずっとこうしていようと思う。 その為にも僕は、君にずっと嘘を吐き続けなくちゃね。 |