*square sky babys* モドル>>___ ツギヘ>>

スクウェア・スカイ・ベイビーズ
D 苦し紛れに生きる日常
 
 生きることに疲れた僕らは、何を糧に歩けばいい?
 意欲を失って、滾るものも得られず、ただただ漫然と命を削るだけの日々。
 目に映るもの全てが浅はかで、耳に入るもの全てが愚かで、口から出る全ての言葉が虚ろで、僕の舌は刺激さえも忘れてしまった。
 彼女を殺したこの両の手は、とても罪に穢れたようには見えず、そう言えば、僕の足も人も殺めていた、しかも実の母親を、そんなことを引きずられるように思い出しながら、彼女を殺めた僕の両手は、殺めた彼女をバスタブへと沈める。
 静かに、そう、彼女の魂を鎮める。
 電話の呼び出し音も、何処か他人事のようだ。他の世界から響く、審判の呼び鈴? 現実から解離しようとする僕を、そうまでしてこの世界に留めていたいのか。
 それは何故。僕一人幸せになることを認めないため? 僕一人楽になることを赦さないから?
 風呂の湯は、湯ではなく水になっていた。昨夜、いつもシャワーで済ます僕が珍しく入った風呂。半身浴。水が足りない。蛇口を捻って浴槽に湯を注ぐ。小一時間もすれば溜まるだろうか。
 留守電に切り替わったらしい。発信音が聞こえてきた。耳障りな。
『あ、熊本のおばちゃんです。○○ちゃん、荷物届いた? 届いたら電話頂戴ね。それじゃあ』
 
 涙ってのは、何の必要性があって流れるんだろう。何の必要性があって……だって、要らないじゃないか、そうは思わないか? 悲しい感情を表すのに、何故涙が必要なんだろうか。疑問でならない。僕にはわからない。誰か教えてくれ。
 
 そして、悔やむという行為を先に出来たならば、きっと人間はもっとよくなっていたに違いないって思えてならない。だって人間は過ちを後になって悔いることしかできないから、だからきっと何度だって同じ事を繰り返すんだ、忘れやすい生き物だから。ちょっとはそう考えたことってないかな。
 反省だけなら猿にもできるって言うけれど、人間は反省すらろくすっぽできない生き物で、そうでなきゃ、どうして僕はまたこうして宛てもなく真夜中の道路を歩いているんだ? 逃げるように、追われるように。
 
 感情を吐き出す場所がなくって、でも感情的な自分は嫌いで、だから鬱積したストレスが爆発してなにかに憑かれたように、優しかった彼女を殺してしまった。この両手で。絞める首は驚くほど細く、華奢で儚かった。それまでに何度も抱いたけれど、一度たりとも気付かなかった。
 僕は、彼女のなにを知っていたのだろう。優しかったところ、首が細いところ……どっちも、殺してしまってから気付いたことだ。ということは、僕は、なにひとつ彼女のことをわかっていなかったということか、そういことか、そうか、なるほど。
 いつからか光が怖くなって、日中は毛布を被るようになった。日の光は勿論、蛍光灯の明かりすらも怖かった。程なくして、朝が怖くなった。昼も怖くなった。明るいのが怖くなった。自分が、暴かれそうで? 自分が、怖くて? 夜が明けなければいいと思った。願った、切に。
 けれどやがて、今度は夜が怖くなった。朝が来ないことを願っていたのが一転、夜が早く終わることを祈るようになった。夜は怖かった。惨めな自分と向き合うのが辛かった。彼女はきっとわかっていた、全部。なにかと頭の良い人だったから。
 暗闇は僕を蝕んだ。生きる力を吸い取っていた。やるせなさと気怠さが僕を支配して、時間の間隔を僕から奪った。夜は怖かった。闇は恐ろしかった。けれど光も怖かった、同じくらい。
 そうして、僕に生きられる空間は消滅した。
 
 どこかで、なにかで、人は皆が繋がっている。僕のこの呼気を吸う人も、どこかにいるのだろう。僕の魂は、その人の中で生き続けるのだろう。そう、きっと、僕の中にも僕以外の沢山の人の魂が詰まっているに違いない。ということは、僕はきっと負けたのだろう、重圧に。自分の生以外の責任を持つことから、逃げ出したくなってしまったのだろう。その辺、つくづく不器用だと思う。単に、非力だとも思う。
 
 死ぬときは、『こう』と決めていた。だって、僕に一番相応しい。
 健康な人が飲んではいけない薬。公園の水道水で、何錠も何錠も繰り返し飲み下す。なんとかベンチまで辿り着いて、横になる。楽になる。楽になれる。これで、やっと。
 つまらない人生だったな。そう思うと同時に、楽しかったとも思う。冷静に考えれば、恵まれた方だったのだろう。
 例えば恋人と喧嘩別れする時、脳裏を駆けめぐるのは二人の悪い思い出だけ。幸せな思い出が沢山あっても、むかついた感情では思い出すことができない。それが人ってやつだ。
 今の僕は、とても冷静で、でも少し落ち込んでいて、そんな状態で思い出すことと言えば、何故だか中学校の学校祭前夜の最終準備だったり。つまり、楽しかった記憶。ということは、僕の一生は幸せだったということだろう。良かった。
 
「月が、綺麗だなぁ……」
 
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