*遺思* モドル>>___ ツギヘ>>

 探すように、手を彷徨わせる。
 僕は、自分でもわからない物を求めて、手を左右に、上下に揺らす。なにかが掴めるのではないかと、曖昧な期待を抱いて。
 感触も抵抗もないのだけど、そこに確かに存在するようなもの。掴まえようと手を伸ばしても捕らえられず、指の隙間をさらりと抜けていくような。
 空気とも違う。
 天女の衣。
 そう、僕は天女の羽衣が欲しいのかもしれない。

 僕等はやがて訪れる未来を切り崩した、過去というゴミの中で生きている。いつか未来の中へ飛び込めたら、きっと明るい世界が広がっているに違いない。そのためには、どうしても天女の羽衣が必要なんだ。それ以外に考えられない。

 天女の羽衣なんて、どうやって手に入れたら良いのだろう。現実に存在しないのだとしたら、残された可能性は、一つしかない。
 人は、死んだらどうなるのだろう。死後の世界は、あるのだろうか。意識が断ち切られたら、僕は、どういう状態になるんだろう。

『金は、友達に分けてあげてください』

 年月日と名前、ついでに拇印も捺す。これで立派な遺言状だ。弁護士などに預ければ、より完璧なのだろうけど。

 客の立ち入りを禁止する旨が記された立て札を無視して、僕はデパートの階段を上る。屋上に出る扉は固く閉ざされていた。僕は戻って立て札を手に、ガラス窓の前で構える。殴りつけては手が痺れて痛いかもしれない。僕は立て札を思い切りガラス窓に投げつけた。デパート全体に響き渡るような騒音。耳を塞ぎたくなるような不快な音。僕は顔を顰めてやり過ごす。
 窓枠に残ったガラス片を蹴って落とし、その穴から屋上へと出る。不意に吹き付けた横殴りの風が僕にたたらを踏ませた。流石に八階の高さは風が強い。
 建物の縁までは五〇メートルもない。走って三,四秒だ。僕は深呼吸をすると、全力疾走をした。小さく跳ぶ。縁に足が掛かる。走り幅跳びの選手になった気分で、僕は縁を蹴った。
 この一瞬を、僕は永遠に忘れない。
 地上八階の高さ。メートルにして二五以上は確実だと思う。
 恐怖を否定するために、僕はただ叫び続けた。喉を潰すように叫び続けた。

 ――走馬燈は、見なかった。



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