*朝焼け* モドル>>___ ツギヘ>>

 ただ朝焼けが見たくて、ただそれだけの為に、僕らは毎日其処へ足を運ぶ。
「綺麗だな」「うん」「気持ちいいなぁ」「ねぇ」「カミサマに感謝」「また?」
 そんなやり取りを、決められた事のように毎日繰り返す。変わらない言葉。不変であることの心地よさ、意図した安息の温もりに、僕らは例えようもない幸福感を抱く。
 僕らは全部で六人。
 動物好きの有田秀兵、音楽好きの高橋叶美、読書好きの西島優人、小物好きの貴島清香、漫画好きの篠原恵路、映画好きの近藤朝来。
 朝来は十三歳、まだ中学校に上がったばかりの子供だ。でも、僕らに此処を教えてくれたのは朝来だった。
 なにか漠然とした不安、形のない希望、言葉にならない気持ち、そんな曖昧なものを抱えた僕らを集めたのが朝来だった。
 深い青の空が、次第に明るく染まり始める。東の端からゆっくりと光が溢れ、静かなグラデーションが広がっていく。雲一つない空は、その様を存分に観察できた。雲があれば変化に富み、また楽しめる。
 有田は出たての朝陽が好きで、高橋は濃い青が引いてゆく様が好きで、西島は朝焼けに染まる雲が好きで、貴島は薄紫と薄黄色がぼんやりと混在するあたりが好きで、篠原は圧倒的に広がるオレンジが好きで、近藤は夜が西の彼方に消えた瞬間が好きだった。
 河原の土手で、僕らは思い思いに朝焼けを堪能する。朝焼けを堪能する六人で居られる時間を身体に、心に染み込ませる。今日も一日、乗り切ってゆけるようにと。
 誰かが泣いたとき、それは前日になにか辛いことがあったとき。皆、涙を流したことがある。だって僕らは、毎日が辛いことの繰り返しだから。本当は毎日泣きたいくらいだけど、この空気を壊したくなくて我慢する。でもどうしても堪えきれないときがある。その時だけ、誰かの胸を借りて泣く。理由は、言わない。僕らは、自分が背負う荷物を皆にまで背負わせたくはないから。信頼とは別の次元にあることだった。好きで、信じてるからこそ、皆には話さない。
 僕らは、ただ毎日朝焼けを見に来る六人、それで充分だった。だからこそ、此処は僕らの聖地であり続けられる。だから、毎日足を運べる。
 空が、朝になった。僕らは腰を上げる。
「またな」「じゃあね」「それじゃ」「またね」「じゃあな」「――バイバイ」
 また明日。
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